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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)867号 判決

一 控訴人が本件実用新案権を有すること、本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであること、イ号物件が原判決添附第一物件目録記載のとおりであること、被控訴人がイ号物件を業として製造、販売していることは、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。

1 控訴人の均等の主張について

当事者間に争いのない前記実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案の構成要件は、これを次のとおり分説することができる。

1 数個の空隙溝を有する懸吊板を台車の器枠に取着し、

2 一対の部材を鋲着して、上部に外向の係合片と途中を外拡して間隙と下部に内向の係合片を相対せしめたホルダーを形成し、

3 フイルムの両端に支持枠を貼着してなる

4 ダンボール印刷用ゴム印を貼付したフイルム懸吊車。

しかして、本件考案においては、右構成要件2の示すとおり、そこにいうような形態をした「ホルダー」が形成されていることが必須であるところ、イ号物件には右のホルダーに相当するものがないから、イ号物件と本件考案との均等を論ずる余地がない。けだし、ある発明なり考案なりの構成要件と置換可能なものを具備していないものは、そのものとある発明なり考案なりとの均等を論ずることはできないからである。

控訴人は、イ号物件は控訴人主張の本件考案の構成要件(事実摘示第二、二、2参照)のうち、1及び2の二つの要件を別個独立の物に構成せず、控訴人主張のイ号物件の構成(事実摘示第二、四、2参照)2´のように構成を変えて、本件考案の構成要件1及び2に置換えたにすぎないものであり、ただ、イ号物件では、本件考案のホルダーに相当する部分を台車から取りはずすことができないようになつており、従つて、イ号物件では控訴人主張の本件考案の作用効果(事実摘示第二、二、3参照)2、(ロ)を失う結果になつているが、イ号物件は本件考案の考案目的も、フイルムの収納、保管方法をも何ら実質的に変更するものではないから、前記イ号物件によつて置換えられた構造の差異は、本質的なものではなく、本件考案の技術的範囲内のものである旨主張する。

しかしながら、前記本件考案の実用新案登録請求の範囲と明細書の考案の詳細な説明の欄の記載(成立について争いのない甲第一号証参照)によれば、本件考案においては懸吊板とホルダーがそれぞれ別個のものとして存在することが必須であり、しかもホルダーは懸吊板の空隙溝内を前後に自由に移動し得るものでなければならないから、右のようなホルダーをもたないイ号物件は本件考案の構成要件に置換すべき何物ももたないことになり、控訴人の、イ号物件の「四角型に形成された内部空洞2」は本件考案の「一対の部材の途中を外拡した間隙7」に、イ号物件の「台車6の器枠7に取着した管1の側面5」は本件考案の「台車の器枠に取着した懸吊板の取着面」に、イ号物件の「管1の一側面の中央部を長手方向に切開した開口部3を有するホルダー4」は本件考案の「下部に内向の係合片8、8´を相対せしめたホルダー5」にそれぞれ相当するとの主張は、それ自体無意味であるというべきである。

控訴人は、また、本件考案においては、控訴人主張の本件考案の作用効果(1)、すなわち、フイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるので、使用時にフイルムを探し出すのが容易であり、フイルムを損傷することもないというのが、最大の作用効果であり、これに場所的に移動できるという作用効果(2)(イ)、(ロ)が付加されたものであるから、作用効果(2)(イ)、(ロ)は、本件考案においては比較的重要でないもの、軽微なものであるところ、前記のように、本件考案の構成をイ号物件の構成に置換えても、イ号物件は、本件考案の作用効果のうち、比較的重要でない作用効果(2)(ロ)を有しないだけで、本件考案最大の作用効果(1)と同一の作用効果(1)´及び作用効果(2)(イ)と同一の作用効果(2)´(イ)´を有するし、右置換は、当業技術者が容易に推考し得るところであるから、イ号物件は本件考案の均等の範囲にあるというべきである旨主張する。

しかしながら、本件考案の奏する作用効果のうちで、フイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるというのが最大で、台車を移動せずに、フイルムをホルダーごと場所的に移動することができるというのは比較的重要でないものということはできない。すなわち、当審における被控訴人本人尋問の結果によりその成立の認められる乙第一号証、第二号証の一ないし六、被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、原判決添附第二物件目録記載のフイルムハンガー(訴外物件)は、被控訴人が本件実用新案登録出願前において二十数台製作してこれを訴外中央紙器工業株式会社に売却したものであることが認められ、右事実によれば、本件実用新案登録出願前において、フイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるフイルムハンガーは公知であつた(ただし訴外物件にあつては、支持枠はフイルムの両面ではなく片面にだけ貼着されている。)ものと認められるところ、本件考案は懸吊板とホルダー及びフイルムを組み合せ、実用新案登録請求の範囲に記載のような構成をとることにより、単にフイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるだけでなく、フイルムをホルダーごと懸吊車に収納し、又はこれから抜き出して場所的に移動することもできるという作用効果を得ることを目的とし、また、そのような作用効果をもつているということができ、ホルダーの奏する作用効果は、控訴人の主張するように、これを軽視すべきものではない。なお、イ号物件においては、本件考案のホルダーに相当するものはなくても、それでもフイルムを整然と良好な状態で収納、保管することができるものと認められるが、本件考案のようにホルダーのある場合に比べると、その出し入れに際してフイルムに傷がつき易いという欠点がある反面、本件考案はイ号物件に比べてホルダーの製作費だけ高くつくという不利の点があり、両者の構成上並びに作用効果上の優劣はにわかに決め難いと認められる。

2 控訴人の改悪ないし不完全利用の主張について

控訴人は、イ号物件は本件考案の構成要件の一部を省略することによつて、控訴人主張の本件考案の作用効果(2)(ロ)の効果を発揮できないようにしたものであるが、右構成要件の一部省略は、専ら権利侵害の責任を免れる目的をもつて本件考案を改悪ないし不完全利用したものであり、イ号物件は本件考案にむしろ有害的事項を附加して、その技術的思想を用いたものであつて、本件考案とイ号物件とは同一性を有し、イ号物件は本件考案の技術的範囲に属する旨の主張をする。

しかし、イ号物件が本件考案の必須構成要件の一つであるホルダーを欠いていること及びそのために控訴人主張の本件考案の(2)(ロ)の作用効果をもつていないこと、及び右の作用効果が本件考案においてはむしろ重要なものであるというべきことは、いずれも前認定のとおりであるから、この点からすでに、イ号物件は本件考案の改悪ないし不完全利用であるというべきものではなく、両者はその技術思想を異にするものというべきである。

三 以上のとおりであつて、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属することを理由とする控訴人の本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は結局正当である。よつて、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとする。

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